甘く濃厚な香りのクチナシは子規の俳句にも

甘く濃厚な香りを放つクチナシの花

甘く濃厚な香りを放つクチナシの花

果実は天然色素や漢方に用いられて

6月に入り、クチナシの花が次々に開花しました。

裏に植えられているのは一重のもので、しっとりとした少し厚みを帯び純白のビロードのような舌の形の花びらを6方向に水平に広げ、花びらのちょうど境には6本の雄しべが花びらの向きと平行に伸びています。中央に存在感のあるスプーンの先のような雌しべが3つ垂直に立ち上がっています。

たった一輪開いただけで、甘くて濃厚な芳香を辺りに放ち、季節感を醸し出すとともに特別な場にいるような何とも言えない気持ちにさせてくれるクチナシの花。

強い芳香の木としては、ほかに春のチンチョウゲ、秋のキンモクセイがあり、クチナシと合わせて「三大香木」と言うのだそうですが、私にとってクチナシは思い出と結びついた特別の香りの木です。

クチナシの花の季節になり、その香りがするたびに思い出すのは学生時代のこと。

毎週の講義に向けて毎回膨大な課題を与えて鍛えてくださる先生がいました。その課題をこなすためには大学に2箇所、図書館と教室の事務室にしかない資料を調べてノートに書き写していかなければなりません。

図書館の資料の方が先に押さえられてしまうので、行きつけない教室の事務室に行かなければならなくなることもありました。

6月だったのでしょう、教室の事務室で資料に向き合っていたとき、強い芳香が部屋を包んでいました。一輪のクチナシが机上に挿してあったのです。

事務室にいた事務員の方の顔もおぼろになってしまいましたが、学生時代の恩師とクチナシの花と香りが結びついて、以来一つの思い出がよみがえらせる条件付けになっているのです。

毎年、クチナシの花が咲きその香りがするたびに思い出すのは、卒業後の進路にもつながった格別の存在の恩師のことです。

「薄月夜 花くちなしの 匂いけり」正岡子規

子規も香りを読んでいるのですね。

クチナシの花は何日も咲かず、純白の花びらはすぐに黄色に変色してしまいますが、その強い芳香は残っています。

花が終わると、花の基部が次第にふくらみ、実を付けます。萼片の名残が6本突き出して実の周りにも稜線が6本あるのが特徴。

花が咲き終わると特徴ある果実になる準備に

花が咲き終わると特徴ある果実になる準備に

さらに1ヶ月後にはしっかりとした形に

さらに1ヶ月後にはしっかりとした形に

赤く色づいたクチナシの実。料理や漢方に使われる

赤く色づいたクチナシの実。料理や漢方に使われる

きんとんなどの天然の着色に古くから用いられている果実は、漢方では山梔子(さんしし)と言い黄だんなどに用いられているそうです。

クチナシの名前の由来の一つは、果実が熟しても開かないことから「口無し」と当てたもの。ほかには、果実の天辺に残る萼を鳥のくちばし、果実を梨と見立てて「口梨」としたというものもあるようです。

八重のクチナシもよく見られますが、実は付かず香りも一重のものほどは強くないようです。

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