
大村智博士が少年時代に、現在の韮崎大村美術館付近の自宅から、市役所が建っている当時韮崎中学校まで日々通った1.8キロメートルの通学路が「幸福の小径」と命名された
4月に韮崎市にある市の指定天然記念物「わに塚の桜」を訪れたとき、桜が武田氏縁の地、武田の里の一角にあることを知り、折を見て行ってみたいと思っていました。
「わに塚の桜」は田園地帯の真ん中にこんもりと盛り上げられた塚に植えてあり、周辺の田んぼに田植えがされた風景もぜひ見てカメラに納めたいとも。
6月初旬の梅雨入り前、お天気を見て急きょ足を向けてみました。
東京方面から国道20号線沿いの韮崎市庁舎のある場所を左に折れて武田橋を渡り、右手の「わに塚の桜」に向かう進行方向左手に視界に入ったのが「幸福の小径」でした。
今回、この「幸福の小径」をたどって「わに塚の桜」方面に向かう予定だったのですが、「幸福の小径」を中心に心奪われる撮影スポットがたくさんあり、この度はこの場所のみの取材になりました。
微生物の生産する有用な天然有機化合物から数多くの新規化合物を発見し、それにより感染症などの予防・撲滅などに貢献したことにより、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、韮崎市出身の大村智博士。
「幸福の小径」は、大村博士が少年時代に、現在韮崎大村美術館付近の自宅から、現在では市役所が建っている当時韮崎中学校まで日々通った1.8キロメートルの通学路のことで、この度のノーベル賞受賞を記念して命名されたものです。
起点となるのは、武田橋を渡ったところから始まる甘利沢川桜公園。
広い河川敷は治水のためでしょう、堤防に整然と築かれた階段状の石積みが目を引きます。
河川敷には地域の方々が植えたと思われる季節の花々が背景の山々や広い河原と調和しています。
川の両岸に沿って整備された甘利沢川桜公園は名前のごとく桜の木がたくさん植えられていて、風景に溶け込んだ石のベンチもあり、所々に駐車場も設けられています。

甘利沢川桜公園から七里岩方面を望む。桜の季節はまたきれいなことでしょう

甘利沢川桜公園から見える茅ヶ岳・七里岩と田んぼ
約1キロメートルに渡る眺望抜群の公園沿いの道を進むと、公園の終点に大村智博士の銅像が少年時代を過ごした田園地帯を見渡し、茅ヶ岳を背景に富士山に向かって立っているではありませんか!
この銅像は、大村博士と親交がある津田裕子・女子美術大学名誉教授製作によるものだそうですが、未来を見据えているような眼差しや像全体のポーズや雰囲気が、地道に研究を積んでこられ、ノーベル賞を受賞という名誉を得ても決して奢ることのない博士のお人柄を如実に表現しているようでもありました。

大村智博士の像の眼差しの彼方に雲から顔を出した富士山が

幸福の小径から富士山の方向
また、像の置かれている「幸福の小径」は、博士を育んだ自然豊かな里山の環境そのものをつぶさに見せてくれました。

富士山の方向。お田植え真っ盛りの田んぼが広がっていました
周囲に広がるお田植え真っ盛り、また田植えを終えたばかりの田んぼの風景は、自然が人を育んでくれるのだ、こうした環境に生きる人たちの影響の元に大村博士は人格を築いていかれたのだとの思いを強くしたことでした。

茅ヶ岳方面。空と雲が田んぼに映り込んでいる

田んぼの向こうに八ヶ岳を望む

夕暮れ時、富士山に向かって立つ大村智博士像
思いがけずに念願の早苗の田んぼ、緩やかな傾斜の棚田の風景もカメラに納めることができました。

緩やかに続く棚田の向こうに七里岩が見える

夏雲の下に田んぼが続いている
「幸福の小径」の終点は大村博士が館長を務める韮崎大村美術館。甘利沢川桜公園からさらに奥まった里山にあります。
大村博士が大切にされてきた思い出深い作品の数々を一般に向けて公開するため、平成19年に会館した美術館を、平成20年に韮崎市に博士が寄贈したものです。
一階展示室には、日本を代表する女流美術作家の作品、二階展示室には洋画家・鈴木信太朗の作品が展示されていますが、大村博士が一点一点かけがえのない出会いを通して感銘を受け、その生き様そのものが伝わってくるという力作の数々。
「もし私の人生に美術品との出会いがなかったなら、それはさぞかしつまらないものになっていたでしょう」と大村博士が同美術館のパンフレットのごあいさつで述べられている意味を実際に体感できる作品ばかりでした。
美術館の二階カフェからは博士がご覧になって日々を過ごした富士山や八ヶ岳、茅ヶ岳、奥秩父連峰を望み、博士の生い立ちのころを共有させていただける思いになります。
美術館の向かいには白山温泉があり、ここで日頃の疲れを癒やすのも良さそうです。
「幸福の小径」沿い、甘利沢川桜公園向かいには小洒落たレストランもありました。
今回は行けなかったのですが、武田家ゆかりの数々の史跡を探訪し、武田の里の自然に触れ、「幸福の小径」をたどる小トリップは、都会の喧騒や多忙な日常を離れた休息とリフレッシュにもってこいのひと時になるに違いないと思えたことでした。
また別途、武田家由来の史跡や武田の里を時間を見つけて巡ってみたいと思います。
大村美術館のパンフレットを一部参照させていただきました。